ニホンウナギ(前編)
兵庫・水辺ネットワーク 安井幸男
〜シンボルフィッシュを決めて河川の環境を守れないか?〜
1 ウナギと日本人 |
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ウナギはタイ、アジ、サンマなどと同様に日本人にもっとも馴染みの深い魚のひとつです。「土用の丑の日」にはビタミンAやBが豊富なウナギを食べて暑い夏を元気に乗りきろうという食習慣は現在も受け継がれています。土用の丑の日にウナギを食べる食習慣の謂れについては諸説あるようですが、江戸時代の蘭学者平賀源内が、夏に売れないウナギを売るために発案したとも言われています。エレキテルの平賀源内がウナギの宣伝文句を考えたなんてなんとも不思議な取り合わせです。でも、ほんとにウナギの旬は夏ではなくて、油の乗った秋〜冬です。 | |
また、日本人はお寿司が好きで回転寿司屋が大はやりです。この回転寿司屋にウナギ蒲焼のにぎりはあっても、生ウナギのにぎりはありません。皆さんもたぶんウナギの生寿司は食べた経験はない!と思いますが・・・いかがですか? 日本人は、刺身が大好きなのにウナギの刺身は食わない。ちょっと不思議に思いませんか? 実はこれには訳があって、ウナギの血液には毒素が含まれるから刺身では食べられないのです。でも、このたんぱく毒は容易に熱分解されるためにふつうウナギは加熱調理されて食べられているわけです。 |
2 ウナギの生活史 |
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ウナギ類は世界で19 種類が知られており、日本には、ニホンウナギとオオウナギの2種が生息しています。ニホンウナギ(以下「ウナギ」という)は東アジアの温帯域から亜熱帯域に広く分布しています。 ウナギは、生活史の中で大回遊をします。あのクネクネした泳ぎしかできない魚が産卵のためグアム島の近くのマリアナ海溝まで約3千q(図2)を泳いでいくというのです。しかし、いまだにこのルートは解明されていません。また、生まれた赤ちゃん(レプトセファルス 葉形幼生)は、北赤道海流、黒潮に乗り、孵化後4〜5 ヵ月もかかって日本沿岸に到着するのだそうです。この間に、シラスウナギへと変態し、春に日本の川に上ってくるのです。また、川に上らず、ずっと海で暮らすウナギもいます。数千キロに及ぶ大回遊といい、海水でも汽水でも淡水でも生息できるという摩訶不思議な魚です。 |
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2009年5月22日に、東京大学海洋研究所と水産総合研究センターの調査船団が、ウナギの具体的な産卵場所について、西マリアナ海嶺南端部の海山域で直径平均1.6ミリメートルのウナギ卵
31粒を採集したことが大きく報道されました。これが世界初の天然ウナギの卵の採取記録だそうです。今になってやっと産卵場所が分かったのですから、古代ギリシャのアリストテレスが著書「動物誌」の中で「ウナギは泥の中から自然発生する」と書いていたそうですが無理からぬ話です。 |
3 ウナギが絶滅危惧種に |
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この日本人になじみの深いウナギの数が近年著しく減ってきています。このため、2013年2月1日に環境省レッドリストの絶滅危惧種TB類に登録されました。ニッポンバラタナゴ、イタセンパラ、メダカなどと同じくウナギも絶滅危惧種に指定されたわけです。 今や汽水・淡水魚のレッドリスト掲載種数は167種にもなっています。これは実に日本に生息する汽水淡水魚の42%にも達しています。この割合だけ見ても、生物多様性の保全は喫緊の課題であることが判っていただけると思います。 また、国際的には2013年7月にロンドンにおいて、国際自然保護連合(IUCN)が国際的な絶滅危惧種としてレッドリストに載せるかどうかを検討する専門家会合を開催しました。今後IUCNのレッドリストに「絶滅危惧種」として掲載された場合、引き続き、絶滅のおそれがある野生動植物の国際取引を規制するワシントン条約での規制対象種になる可能性があります。こうなると、輸出国の許可証がないとウナギの輸入ができなくなります。 |
4 ウナギが神戸の河川に生息している! |
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また、図7は2013年7月の菅の台小学校(福田川の上流)の観察会の様子です。図8はそのとき採集したウナギです。50cm以上に成長していましたので4・5歳以上と思われます。ふつうウナギは約10年をかけて成長した後、産卵のため川を下りマリアナ海溝を目指すといわれています。この個体もあと数年たてばマリアナ海溝目指し旅立つのでしょうか? 菅の台小学校の観察会では確認できた生きものの数や種類は少なかったですが、それでもドジョウ(1尾しか採集できなかったので放流かも・・・)、モツゴ、モクズガニ、スジエビなどが採集できました。 |
5 例えばウナギをシンボルに決めて川の環境を守れないか? |
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ウナギの話を書いてきましたが、河川によってはウナギをシンボルにして川の環境を守れないだろうかと考えています。住吉川や都賀川では、アユをシンボルに市民団体が市や県と協働し、川の環境を守る取り組みを展開しておられます。 図9は、2012年11月の美野丘小学校の都賀川下流域の観察会の様子です。図10はそのとき確認したアユ達(黒く見えるのは、婚姻色の出た「さびアユ」と呼ばれるオス)、また、図11はそのとき確認した小石に産み付けられたアユの卵です。 このように子供たちが川に入り遊び・学ぶようになれば、ゴミは減り、どんどん川はきれいになっていくと思うわけです。 |
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6 気をつけたいこと(お願いしたいこと) |
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川の環境を守るためには、河川改修(コンクリート三面張りの見直しなど)、ゴミ不法投棄、川の土手づくりや淵や瀬の復活など多くの課題はありますが、市民サイドで気をつけてほしいなと思うことがあります。それは人為的な生きものの放流の問題です。 図12は伊川(明石川水系)の観察会を行ったときに採集し展示した外来種3種(オオクチバス、ブルーギル、カムルチーです。特にオオクチバス、ブルーギルは生態系に与える影響が大きいことは周知の事実です。なお、この展示にあたっては外来種法に則り兵庫県が事前に許可を取った上で、移動し展示をしています。)です。 オオクチバス、ブルーギル、ウシガエル、アカミミガメなどの影響の大きい外来種を駆除しなければ日本の生物多様性は守れません。このような特定外来種は判っていただきやすいのですが、プラスアルファで国内の移入種にも気をつけていただきたいのです。 例えば、生田川でオヤニラミ、住吉川でハリヨを確認しています。また、北区のため池ではニッポンバラタナゴ(タイリクバラタナゴとの雑種の可能性もあり)、イチモンジタナゴ、シロヒレタビラとなど生息する池が複数あります。これらの種は日本の絶滅危惧種ですが、本来神戸には自然分布していない種、又は、商売目的や趣味で誰かが放流した生きもの達です。 |
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国内の在来種であっても本来自然分布しない種等を放流することも慎まなければならないと考えます。「生きものさえ増えればいい」というのではなく、「その地域が育んできた種を保全し、その地域ごとの生物多様性を図っていくこと」が、真の生物多様性保全だと思うのです。 |
ニホンウナギ(後編)
兵庫・水辺ネットワーク 安井幸男
〜シンボルフィッシュを決めて河川の環境を守れないか?〜
前編では、ウナギの四方山話や生活史などを紹介いたしましたが、 後編では、「シンボルフィッシュを決めて河川の環境を守れないか」という視点で書いてみたいと思います。 |
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1 都賀川や住吉川の事例 |
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都賀川や住吉川では、アユをシンボルに市民団体が市や県と協働し、川の環境を守る取り組みを展開しています。図1は、2012年11月の美野丘小学校の都賀川下流域の観察会の様子です。 子供たちはアユの卵(図2)を見つけることができました。住吉川でも本庄小学校の住吉川下流域の観察会でアユの卵を見つけることができました。このように子供たちが川に入り遊び学ぶようになれば、ゴミは減り、どんどん川はきれいになり、川の生態系も守られると思います。 また、行政も川の生態系や親水性向上に努めるでしょう。 |
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2 神戸市内の河川のシンボルフィッシュの候補は? |
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シンボルフィッシュの候補は、そこに生息している種(外来種や移入種を除く)であれば、住民や子供たちが親しみやすく、名前をよく知っている種であれば何でもよいと思います。 魚類にこだわる必要はなく、両生類、鳥類、爬虫類、甲殻類、貝類でもかまいません。 要は、身近な生きものをシンボルに決めて、地元住民、小中学校、区役所、河川管理者等が協働することにより、多様な生きものが生息し子供たちが水遊びのできる川に復活できないだろうかと思うのです。 表1に神戸の都市河川を例にシンボル種の案を提示してみました。
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3 福田川でウナギをシンボルにすると |
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垂水区の福田川を例にとり、ウナギをシンボルにして、川づくりを考えてみたいと思います。 (1) はじめに川の現状・特徴を知る
(2)ハード面(物理的・化学的な環境)を考える まず災害防止策を図ったうえで、ウナギの立場に立って川のあり方を考えてみることです。ウナギの赤ちゃんがマリアナ海溝から日本にたどり着き、福田川で生きていくためには、 @川に上ることができる= コンクリートの大きな段差がない A水が涸れず、水質がよい= 汚水や排水流入の防止 B餌がある= エビや小魚が安定的に繁殖 C生きていくための生息空間(瀬や淵、砂地・ごろた石、水草、岸辺にはヨシ原や灌木の根っこ部などの隠れ場)がある= 大水が出たときも避難所となる。⇒真の意味での多自然型工法が必要 ウナギの立場からは、川幅はできるだけ広く、川は蛇行して瀬や淵、中州、干潟、砂地、ごろた石場、干潟等を自由に造れるように、また、水中には水草が生え、川岸にはヨシ原や柳などの潅木が育つ環境であれば一番いいのですが、都市河川ではそうはいきません。 福田川では、両壁は直立のコンクリートですが、幸いなことに川底には砂地・ごろた石・大きな岩が残されているためウナギやカワアナゴが生息でき、川岸には狭いながらも雑草や潅木が残されているためクロベンケイガニが生息でき、河口にはささやかながらも干潟があるためアサリが生息しています。ウナギの立場から、川(底や岸や干潟も含め)をどうすれば住みやすい構造にするかを考えることが大切だと思います。また、海にとっても川は大切な栄養塩や砂の運搬路です。山〜川〜海のつながりを断ち切らないことが大切です。 (3)ソフト面(人と自然との共生)を考える ウナギと人間の立場の両面から、理念は「里」(里山・里地・里海)の復活だと思います。かつて川はこの3つの里を繋ぐ動脈血管でした。そこにウナギをはじめ多様な生きものが生息していました。しかし、現在の福田川は放水路(溝)としての機能が最重要視される都市河川です。あまり無茶も言えません。そこで、 @災害防止を図りながら、人も生きものも川を利用させていただく = 人も魚もカニも住民、「川がき」の復活など A生きものにやさしい構造を考える = 少なくとも川底は自然状態で残し、川岸にはどのような多自然型工法を採用するかを住民参加で検討する B行政、河川管理者、地域住民の協働 = 防災と生息環境を考えた構造にする C生きものの調査や観察会の継続 = 小学生たちの地域学習、環境学習などに利用する Dゴミの不法投棄、汚水排水流入の防止 = 住民の清掃活動などを継続する 人間は生態系のピラミッドの頂点に乗せてもらっている(君臨ではない)のです。「里」は、人間が水を得て、食料を得て、燃料や家畜の餌も確保し、さらに遊び場として自然環境を利用させてもらってきたという意味です。一方、ドジョウ、フナ、ナマズ、メダカ、トノサマガエルなどは、人間の造り出した小川や田んぼやあぜの水路をうまく利用して生きてきました。福田川流域もかつては豊かな里山里地里海だったことでしょう。簡単ではありませんが、ソフト面からも水系のつながりや生態系を取り戻す努力をし、人間を含め生きとし生けるものすべてが生き残れる環境を保つことが大切だと思います。 福田川では、福田川クリーンクラブを中心に、流域の小学校、区役所が協働し、ウナギをシンボルフィッシュに川の生態系保全を図れないか検討を開始したところです。できるところから、かつての豊かな里海、里地、里山を少しずつでも復活させていきたいと思います。 4 さいごに さいごに、川の生態系を守るために気をつけてほしいなと思うことがあります。それは人為的な生きものの放流の問題です。 図5は伊川(明石川水系)の観察会を行ったときに採集し展示した外来種3種(オオクチバス、ブルーギル、カムルチー)です。他にウシガエル、アカミミガメなどもはびこっています。生態系保全のために外来種を絶対に放流しないでほしいと思います。 また、国内の移入種にも気をつけていただきたいのです。例えば、生田川でオヤニラミ、住吉川でハリヨ(図6)を確認しています。国内の在来種であっても本来自然分布しない種等を放流することも慎まなければなりません。「その地域が育んできた生態系を保全し、その地域の生物多様性を図っていくこと」が、真の生物多様性保全だと思います。
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